社会人大学院の入試問題で、小論文の問題からは逃げられません。短い課題文章があって、それについて自分の考えを論じる、みたいなのが定型フォーマット。この記事では、東工大技術経営(MOT)の、平成25年度夏入試問題の小論分について考察します。
模範解答とか大それたものではなく、国内大企業の理系エリートサラリーマン集めに本気な、東工大MOTの斜め上な試験問題を一緒に楽しむ記事です(笑)
3ページにある一般問題の問題2についてです。
目次
経済学をディスる
友野典男、『行動経済学 経済は「感情」で動いている』という著書から抜粋した、引用文を読むところからこの問題はスタートします。約500文字なので、本を読むのが異様に遅い私でも、1分ぐらいで読めちゃいます。要約すると、
- “経済人”とは、すべてに合理的で、そのためならば利己的にもなる
- 一方われわれは、だらしなく、短絡的な欲望で行動する
- “経済学”は、すべての人が“経済人”という前提で構築されている
- “経済人”を神のような人物と揶揄し、“経済人”とは友達になりたくない
まず最初に感じたのが、なぜこの文章を引用してきたのか。もはや、完全に、
経済学をディスるつもりですね!
(笑)
なぜ、東工大MOTがこのような試験問題を出題したのか、東工大MOTを修了した私の目から見て考察してみようと思います。
3つの仮説
大学入試の出題者は特定できないので、ここでは仮説のみにとどまります。実際に仮説検証できないのは本意ではありませんが、仮説での妄想をお楽しみいただけたらと思います。
仮説1:経済学へのジェラシー
簡単に言い過ぎかもしれませんが、理工学の分野で経営学つかって大儲けしようというのが技術経営の目的です。数式に投影してすべての論理を語る理工学を対象にしているのに、それを扱う経営学で数式に投影できているケースってほとんど見たことありません。一方で経済学って、だいぶ、数式じゃないですか。
- 理系なのに定性的な技術経営(MOT)
- 文系なのに定量的な経済学
このコントラストに非常にジェラシーを感じているのではないかという仮説です。
仮説2:他の学部からマウントをとりたい
東工大MOTの教授は、概ね理系脳をもっているような気がします。なので「モデル化」に関してはわりと大好き派だと思います。東工大のほとんどの学部は、モデル化する対象はモノである一方、MOTだけはヒトを対象にしています。いいポジショニングを見つけちゃった♪という高揚感が垣間見れます(笑)
仮説3:シュールな過去問で惹きつけたかった
どの年度の試験問題も、根底にはこの仮説が成り立つような気がします。だいたいの傾向として、引用文にはツッコミどころ満載なものが選ばれてます。“経済人”を神のような人物と揶揄し、“経済人”とは友達になりたくない、とか、どうでもよくないですか?
あと、ガチガチに論理を追及する小論文で、モデル化を問う問題なのに、引用文の最後の出展に、タイトル全部を書いています。
(友野典男,『行動経済学 経済は「感情」で動いている』,光文社新書,2006 年より抜粋)
経済学は合理的が基本なのに非合理的な感情を根拠にしているのか、または、非合理的な感情を合理的だと矯正しているのか、受験生を混乱に陥れる出題者の意図が見えて、非常にシュール。
いろんな仮説がありますが、入学してほしい受験生をスクリーニングするために、この問題は果たして合理的だったのだろうか(笑)
東工大出身者からみた本質
ちょっと真面目に考察してみます。今回の問題は下記の3つです。
- モデル化の例を記述しなさい(400字程度)
- モデル化を行うことの効用を論じなさい(800字程度)
- モデル化を行う際の注意点を論じなさい(800字程度)
東工大MOTで受講した講座の中で、よく覚えていることがあります。科学であれ社会学であれ経済学であれ、学問はある前提を定義して、その境界の中だけで真理を追究し、その真理が境界を脱して一般化できるかどうかが問われている、という。
この問題は、境界条件を明確にすることでモデル化がしやすくなること。そしてそのモデル化によって様々な議論ができて、世の中をどんどん前に進められること。どんどん進めてもよいが、境界条件から外れると前提条件が成り立たないので、そのモデルがいつまでも使えると思わないように注意すること。
1番目のモデル化の例を記述させるところは、東工大っぽいなと思います。引用文とは関係なく、自分でどんなテーマを選んでもよい。じゃあ、何のための引用文だってツッコミ入れたくなりますがw。とはいえ、自分が選んだテーマについて、どんなにしょうもないテーマを選んだとしても、モデル化の肝である境界条件を意識して論理的に論じろという問い。無駄だと思われることに対して、真正面から超論理的に立ち向かう、という東工大の学風がよくでている良問だと思いました。
そんな学風の東工大MOT、あなたも目指してみませんか?
平成28年夏入試問題についても分析も参照してみてください
本ブログのMBA/MOTカテゴリーでご紹介している内容は、以下の記事をご参照ください。