”5G”というキーワードが盛り上がりを見せている。ネット上でも沢山の記事が書かれ、新聞やテレビ等のオールドメディアでも取り上げられる機会が増えてきた。2019年から本格的に商用運用が始まろうとしている次世代通信技術”5G”。
大して専門家でもないインフルエンサーや、PV稼ぎのライターが書いている記事に散見される勘違いがあまりにも酷いので、5G普及に向けて真剣に頑張っている人たちや、社会が豊かになるインフラに投資する投資家さんたちのために、5Gの本質について触れようと思う。結論から言うと、それは、「経済的な効率化」だ。
目次
5Gの本質は要件定義
5Gの3つの特徴として、高速大容量通信(超速い)、超高信頼低遅延(遅れがない)、超多接続(超沢山つながる)を挙げている記事が多い。酷い例でいうと、
- 高速大容量通信 → 動画が綺麗で速い
- 超高信頼低遅延 → 動画がカクカクしない(←コレが酷い)
- 超多接続 → スマホが沢山普及しても電波切れない
という解説記事がよくある。正直、頭が痛い・・・。例えば、超高信頼低遅延だから動画がカクカクしないというのは、完全にミスリードである。そんなことのために、低遅延を実現するスペックを実装しているのではない。4Kや8Kの動画が、カクカクせずにスマホで見るためには、スマホのバッファを空にしないように、高速でデータを送ればいいだけだ。
動画配信という文脈で低遅延を語るのであれば、ターミナル側のスマートフォンを低コスト化するべく、ROMやRAM容量を極力小さくしたときに、バッファサイズが小さくなった結果、遅延を抑える必要性がでてきたときに、ようやく開始すべき議論だ。
パソコンの世界でも、システムが起動するだけのROM容量だけを確保し、データはクラウドストレージで一括管理すれば、個別にバックアップする必要がなく、データセンターでの一括管理で消費エネルギーも最適化でき、マクロ経済的に効率的。その代わりにパソコン上でカクカクしないよう、光ケーブルを中心としたブロードバンドネットワークが構築された。「経済的に効率的」だから、というのがコトの本質だ。
何故このようなアホな議論になるのかというと、3つの特徴から無理矢理ユースケースを考えているからである。これは3Gや4Gの進化が、グローバルでの「仕様共通化」や「通信スピード向上」という、技術オリエンテッドで進んだので、技術の進化をベースにユースケースを考えた結果だ。それでも4Gまでは、技術が連続的な進化(通信スピード)をすることで、産業の活性化やユーザーの満足度向上が図れる程、まだまだパフォーマンスに改善の余地があったからだ。
5Gの3つの特徴が生まれた背景
5Gの3つの特徴は、ネットワークの導入や進化によって、よりユーザーに有益なサービスを提供したい業界の専門家達が集まり、ユースケースやビジネスモデルを散々議論し、技術要件に落とし込まれ、分かり易いように抽象度を上げた結果、3つの特徴が”キャッチフレーズ”となったのだ。
今まで各業界が個別で最適化し、コスト効率を追求していた時代から脱却し、5Gネットワークを巨大なインフラとして、その進化やメンテナンスを、専門家である通信事業者と通信機器業者に委ね、インフラ管理コストを効率化する。
そして、業界のプレイヤーたちは5Gのネットワークインフラを利用して、個別サービスに注力することで、よりよいサービスをユーザーに提供したり、社会を豊かにしようとする、壮大な試みであると筆者は理解している。
専門家たちが、社会をよりよくしようと、業界の垣根を超えて、国際的な会議で何年も前から議論し、それぞれユースケースを出し合って、技術要件に落とし込んでいった。各企業が有利になるように議論がぶつかったこともあると想像する。幾多もの議論の末に、チェアマンが仕様をとりまとめ、ようやく2018年に最初の仕様が固まった。地球全体を巻き込んだ標準化作業として、これほどまでの規模で行われたのは初めてであろう。
”5G”の本質は、技術の本質を考えるお手本
「”5G”の本質は、経済的な効率化だ」というタイトルの記事だが、ここまで考えてきたことを抽象化すると、これは「技術の本質は、経済的な効率化だ」と言ってもよいだろう。
技術を使って利益を生み出す会社は、会社それぞれで様々な考え方があり、垂直統合する会社もあれば水平分業する会社もある。通信技術が必要なサービスや商品は、通信インフラを丸ごと垂直統合することは、誰がどう考えても経済的に効率が悪い。
マクロ的な視点で考えると、通信という機能をモジュール化し、インフラとターミナルのインターフェースを規格化することで、インフラ側はモジュール内で独自に進化し、高速通信、低遅延、多接続に対して、ひたすら低コスト・高品質を追求できるようになる。ターミナル側はユーザーが便利になるような最適化にひた走る。その間のエアインターフェース・通信プロトコルを標準化し、規格化することで、個別に進化することができるようにする。これが経済的な効率化を追い求める、技術の本質だ。
技術とは本来、人々の生活をより豊かにするための手段であるが故に、経済的な効率化を追求する必要がある。その技術の本質を理解するために、”5G”は壮大なるケーススタディーの題材と考えることができるのではなかろうか?
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